Page11. ある日ある時の酒飲み日誌 (冬の日1)

雪の降った次の日の金曜。なんとなしにいらいらしていた私は仕事から帰るとすぐに着替え近所の徘徊に出かけた。散歩のつもりだったが夕飯を作るのがだんだんと億劫になりふらりと通り道のダイニングバーへ入った。

 

雪のためか他に客はなく、店にはマスターと私のふたりだけ。

 

カウンターに座る私。カウンターの向こう側に座ってこちらをちらと見ては視線を上におよがせ何かを思案したように首を横へ向けて煙草を吸うマスター。その落ち着きのない様がコミュ症のそれと少し似ていた(ごめん)ので、ああ、この人話題を探してるのかしらと思った。

 

その日のお通しはトルティーヤ生地で生ハムの細かいのとレタスとサラダチキンみたいなのを巻いたもの。

塩辛めなお肉と甘めのウイスキーを合わせたかったのでスパムサラダとフォアロゼのハイボール、つまみ兼締めのトムヤムクンも早い段階で注文。

 

スパムサラダは焼いたスパムと、きゅうり、トマト、マヨネーズを好みで組み合わせてレタスで巻いて食べる代物。

ウイスキーの微妙な甘さや花の香りが感じられるハイボールと、スパイシーで塩辛い味付けの肉が合う。お通しとお酒、つまみのチョイスに成功した例となった。

 

暇つぶしにと思って本を持参したが頭に入らない。BGMのEDMに耳を傾けぼけーとしていると、そのうちトムヤムクンが運ばれてくる。

 

この店のトムヤムクンは本格的で、レモングラスが刺さっていたりと、だめな人は本当にだめな複雑な味がする。(私は初来店から虜。)

「なんかの薬みたいな味がするなあ」と謎の根菜をがじがじ噛んでいたら、

 

マスター「それ、食べられないと思うよ」

 

私「何ですかこれ?」

 

マスター「それねー、向こうの生姜。」

 

向こうってどこですかい。(タイだってよ!)

 

グラスの底に3センチほど残しておいた薄くなったハイボールを飲み干してほのかな甘さを感じた後、締めの煙草。

 

最近知人に貰ったリコリスペーパーで1本巻いてみたけれど、葉っぱが乾いていたのかよく燃えてすぐに終わってしまい味がわからなかった。

 

気を取り直してもう1本。別の葉っぱもそれなりに乾燥している。携帯ヒュミドールが欲しいこの頃。

 

のちに自分の20代を振り返ってふらっと歩いて飲みに行っては1回2000円くらいでちょいとつまみと1杯ひっかけて夕飯して帰ったものねなんて思い起こす日が来るのかななんて考えて

 

自分の短い歴史の中にこういう日を残せたことを嬉しく思う。